今まで風景写真というものに特に興味を持ったことはなかった。どんな写真を撮りたいかと聞かれれば、いつもそう答えていた。自然の美しさには感動するが、写真となると、その美しさが写真に勝ると思うからだ。夕暮れ時の美しい一枚は私には「ただの」夕暮れの素晴らしい景色にすぎない。その風景があまりに美しく、その美しさを写真の中に収めることはできないだろうとつくづく実感するのだ。昔、南フランスに広がる丘陵地域に行った時もそうだった。私たちは車を使ってゴッホの絵のなかを旅していた。一瞬「カメラはどこだっけ?」と頭に浮かんだのだが、すべてが夢のようでシャッターを押せず、結局何も写真に収めることが出来なかった。あれから随分と時間が経った。
今の時代、目の前に広がる風景を心行くまで楽しむ人を目にすることは益々珍しくなってきた。
自然の美しさに酔いしれず、素早くシャッターを切り撮影するために立ち止まることが常だ。
今や誰もがディスプレイを通して自然を見る。体験することをせず、すぐに撮影してシェアする。これに何か意味があるだろうかと自問する。デジタル時代、私たちは日々無限のイメージによって爆撃されているが、私たち自身がそのイメージの数を増やし続けている。信じられない速さで全てを撮影している人がいる中で、自然の眺望を肌で感じ楽しんでいる人を見かけると嬉しくなり、こうあるべきだと思う。だから、自然を上手く表現できないまま写真で再現するよりも、自然を満喫している人を写した写真が私は好きだ。
Caspar David Friedrich - Two Men Contemplating the Moon
Caspar David Friedrich - On the Sailing Boat
ドイツの画家カスパー・フリードリッヒの風景画を思いだす。彼の描く後ろ姿の人物像は、風景画の歴史において革新的だった。それまでは誰も後ろ姿を描いて感情を表現することが出来るなんて思わなかったからだ。彼の人物からは、内面的な個々の世界と外の世界の間にある緊張感が伝わってくる。この背中越しの男性や女性は静かに思いにふけり佇んでいる。
スナップ写真を撮る人にとって、後ろ姿の人物はいつもダメとされている。それでもシャッターを切ってみることをお勧めする。もっと面白い場面が撮れるかも!
記:アレッサンドロ・メリーニ