こころの眼

最近、カルティエ・ブレッソンの「こころの眼」という本を買った。
この本は写真についてのマニュアル本ではなく、偉大な写真家である彼の哲学やその考えをまとめたものだ。ストリートフォトグラフィーを考える時、ブレッソンなしには語れない。彼の写真が伝えるものは「決定的瞬間」の探求と、ほぼ幾何学的とも言える完璧なイメージの構成。決定的瞬間を探し求めることは、ある場面でただ一枚の写真を撮ることではない。とりあえず連写して後で良い写真を選ぶことに彼が反対だったことは確かだが、興味深いシーンに出くわした時は何度もシャッターを切った。実際、ある場面における決定的瞬間というのは、いくつもの決定的瞬間によって成り立っていることもあるのだから。興味深いのは、ブレッソンはもともと絵画に興味があり、デッサンをする行為の延長として写真をとらえていたことだ。実際に、彼は30年もの写真家としてのキャリアを積んだ後、写真から身を引き絵を描いた。ブレッソンが、時代とともに撮影方法を変えた写真家達と一線を引く理由のひとつは、おそらく、50ミリレンズを積んだ彼のライカで白黒写真を撮るという彼らしい撮影方法に常に忠実だったことだろう。ある時、ブレッソンはこの繰り返しの行為に疲れてしまい、皆を驚かせながら写真を撮ることを辞めた。カメラを使わず、彼はこころの眼を使って写真を撮り始めた。